BIT(Behavioural Inattention Test)は、半側空間無視を多面的に評価する認知検査であり、点数化と観察によって精度の高いアセスメントが可能です。
本記事では、BITの採点項目や配点方法、スコア範囲、臨床的カットオフ値、誤答や反応パターンの解釈方法までを詳しく解説します。
評価結果をリハビリテーションや訓練目標に活かすための実践的な読み取りポイントも紹介しています。
作業療法士・臨床心理士・医師など、認知評価に関わる専門職にとって役立つ内容です。
採点項目と配点方法
BIT の採点は 通常検査Conventional(BITC = 6 課題) と 行動検査Behavioural(BITB = 9 課題) を別々に集計し、最後に合計得点(最大 227 点)を算出します。
| サブテスト | 主な評価指標 | 配点例 |
|---|---|---|
| BITC ①線分抹消 ②文字抹消 ③星印抹消 | 目標線・文字・星を正しく抹消した数(最大 36/40/54) | 未抹消 1 つ=0 点、完全抹消=満点 |
| ④図形模写 | 図形の欠落・左右対称性を 0–3 点で評価 | 総得点 0–9 |
| ⑤線分二等分 | 中点偏位を mm 単位で測定し 0–3 点換算 | 総得点 0–9 |
| ⑥描画 | 左右欠落・形状の正確さをチェック | 総得点 0–9 |
| BITB ①写真探索〜⑨カード分類 | 各課題で見落とし数・誤反応を換算表に代入し得点化(最大 81 点) | 例:写真探索で命名 20 個=満点 14 |
- 合計 227 点 → 低いほど無視が重度(BITC ≤ 129、BITB ≤ 671 が臨床カットオフ)。
- 採点表には誤抹消・偏位量・反応時間なども記録欄があり、走査パターンや左側無視の質的特徴を併記します。
- 得点は スクリーニング(有無判定)だけでなく、退院後 ADL 予測やリハビリ効果判定にも使用され、BITB は実生活場面での支障を反映する指標として重視されます2。
このように BIT は 定量スコア+行動観察 の二重構造により、無視症状を多面的に把握できる評価バッテリーです。
スコアの範囲(最低〜最高点)
BIT では Conventional と Behavioural が別々に採点され、言語版によって上限点が異なります。
| セクション | 満点(国際版) | 満点(日本語版) | 最低点 |
|---|---|---|---|
| BITC(通常検査 6 課題) | 146 点 | 141 点 | 0 点 |
| BITB(行動検査 9 課題) | 81 点 | 81 点 | 0 点 |
| 合計スコア | 227 点 | 222 点 | 0 点 |
臨床では BITC ≤ 129 点、BITB ≤ 67 点 をカットオフとして用いることで、半側空間無視の有無をスクリーニングしつつ、ADL に及ぶ影響も把握できます。
点数差が大きいほど無視症状が重度であり、経時的なスコア推移はリハビリ効果の指標となります。
極端に低得点のときは重度の無視、注意障害、または検査非協力の可能性を疑い、質的所見と合わせて判断します。
カットオフ値(臨床的に意味のある点数)
| スコア | 満点 | 国際版 Cut-off | 日本語版 Cut-off | 臨床的意味 |
|---|---|---|---|---|
| BITC(通常) | 146 | ≤ 129 | ≤ 131(141 点満点中)3 | 机上課題レベルで半側空間無視を示唆 |
| BITB(行動) | 81 | ≤ 67 | ≤ 68 | 日常生活動作で無視が現れる可能性 |
| BIT 総合 | 227 | ≤ 196 | (日本語版 222 点満点 ⇒ 192 点程度が目安 *) | 全体として無視症状あり |
*日本語版では BITC 満点が 141 点となるため、総得点の閾値は 196 点を 5 点引いた ≒ 191–192 点 が目安になります(日本版手引参照)。
- 1 点でも下回れば半側空間無視の疑いが高まり、下位課題単独でカットオフを割る場合も見落とさない。
- 年齢・認知機能による影響を考慮し、質的所見(走査パターン・誤抹消の左右差等)と併せて判断することが推奨されます。
これらの閾値は Halligan et al., 1991 の標準化研究および日本語版マニュアルに基づき、現在も臨床のゴールドスタンダードとして用いられています。
点数の意味・評価の指標
総合スコアの位置づけ
BIT の点数は単なる“高い/低い”ではなく、目的(スクリーニングか経過観察か)と症状の重症度によって解釈が変わります。
BITC(Conventional)
紙筆 6 課題で構成され、得点が低いほど 机上での視空間認知・視覚探索・持続注意 に偏りが存在します。
BITB(Behavioural)
9 つの ADL 模倣課題で構成され、低得点は 日常生活場面で無視症状が表出しやすいことを示します。退院後の安全管理や支援量の判断に直結します。
下位課題の“極端値”に注目
トータルがカットオフを上回っていても、特定課題の得点が極端に低い場合は要警戒。例:図形模写だけ極端に偏る → 左右空間表象の異常が残存。
質的情報を組み合わせる
オミッションの左右差、走査開始位置、同じ対象の二重抹消などの 遂行パターン は、点数だけでは見えない無視の質を示唆します。
併存障害との照合
注意障害・実行機能低下・失語など他の高次脳機能障害がスコアに影響するため、MMSE や Trail-Making Test などと併読して包括的に評価します。
臨床応用
点数と質的観察を合わせて分析することで、個別の訓練目標設定(例:視覚探索訓練、プリズム適応)や生活支援計画(食卓配置、安全指導) を具体化できます。
誤答・不完全応答の扱い
BIT では オミッション(見落とし)や誤抹消はすべて減点対象 となり、検査者は下表の採点基準に従って記録します。
| 課題 | 採点基準の例 | 部分点の有無 |
|---|---|---|
| 3 つの抹消課題 | 抹消し忘れ・誤抹消 1 つ=0 点、完全抹消=満点 | × |
| 図形模写・描画 | 欠落・左右非対称の程度を 0–3 点で評価 | ○ |
| 線分二等分 | 中点の偏位量を 0–3 点換算 | ○ |
| 行動 9 課題 | オミッション/誤反応数を換算表で点数化 | × |
これらのエラープロファイルは、視覚探索訓練・プリズム適応・ADL 配置工夫など 個別化リハビリ戦略 を立案する際の重要な根拠となります。
不完全応答(例:線の半分だけ抹消、絵の左半分が欠落)はオミッションとして扱い、対応分を減点4。
採点時には 左 vs. 右の誤答数 を必ず記録し、空間的偏りを可視化します。左側オミッションが突出していれば典型的な左半側無視を示唆します5。
質的所見(走査パターン、二重抹消、時間超過など)を採点表に併記することで、点数では捉えにくい注意の乱れや探索戦略を把握できます。
反応パターンの読み取り例
BIT では 定量スコアだけでなく反応パターンの質的読み取り が臨床的に不可欠です。
- 開始位置の偏り
キャンセレーションや線分二等分を 右端または中央から始めるのは左半側無視の典型所見で、得点が境界域でも見逃しを補足できます6。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov - 描画特性
絵や図形をページ右側に寄せ、左半分が大きく欠落する――これは視空間表象レベルの無視を示す手がかりです7。strokengine.ca - 探索軌跡の乱れ
取消課題で視線・手の動きがジグザグし突然左右を飛び越える場合、持続注意の破綻や視覚探索の統制障害が疑われます8。pmc.ncbi.nlm.nih.gov - 過剰反応(perseveration)
既に抹消した標的に再度印を付ける「二重チェック」は空間認知の混乱と neglect 重症度の高さを反映します9。sciencedirect.com - 質的記録の重要性
検査者は 左右どちらの誤答が多いか、走査パターン、動作の遅延・躊躇 も採点表にメモし、軽度~潜在的な無視を逃さないようにします。tactustherapy.com
こうしたパターン解析を点数と合わせて用いることで、訓練ターゲットの精緻化や安全配慮の優先順位付け が可能となり、BIT の臨床価値が一段と高まります。
関連文献
脚注
- Halligan et al. (1991) の標準化研究と後続レビュー(Menon & Korner-Bitensky, 2004)で示された臨床閾値です。(strokengine.ca) ↩︎
- Strokengine:BIT 合計は FAI 予後の 61–73% を説明しています。(Jehkonen 2000) ↩︎
- 日本語版手引と国内論文が 141 点満点中 ≤ 131 点を閾値として採用しています。(jstage.jst.go.jp) ↩︎
- 半分のみの抹消・片側欠落は omission としてカウントします。(health.utah.edu) ↩︎
- 左右差は neglect severities & subtypes を示す補助指標です。(sciencedirect.com) ↩︎
- 取消課題や線分二等分で “right-biased starting point” は左 neglect の代表的所見と報告されています。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov) ↩︎
- 「患者はページ右側に描き左側要素を大きく欠落」と記載されています。(strokengine.ca) ↩︎
- 研究で “disorganized or zig-zag search paths on cancellation are linked to sustained-attention deficit”(pmc.ncbi.nlm.nih.gov) ↩︎
- Perseverative二重マーキングは neglect severity と機能障害に相関しています。(sciencedirect.com) ↩︎