鉄道輸送は、大量輸送や低炭素排出といった環境に優れた利点があり、定時性と安全性も高い一方で、ルート変更の難しさや高い維持費などの課題を抱えています。
本記事では鉄道輸送の利点、欠点について解説します。
鉄道輸送とは?
鉄道輸送は、線路上を走行する車両によって旅客や貨物を移動させる効率的な輸送手段です。特に都市間や都市内の大量輸送に優れており、道路交通の渋滞を避け、一定の速度で多くの人や物を安全に運ぶことができます。鉄道は高い定時性と信頼性が求められ、運行スケジュールが厳格に管理されているため、交通手段としての安定性が高いとされています。また、電気を動力源とする電車が多く、CO2排出量が少ないため環境にも優しいとされ、持続可能な社会の一翼を担う存在です。さらに、鉄道輸送は多様な車両や設備を用いることで、急行や特急、貨物専用列車など、利用目的に応じた柔軟な運行が可能であり、都市間の高速鉄道から地方のローカル線まで、地域の交通ニーズに応えるインフラとして発展しています。


鉄道輸送のメリット
鉄道輸送は、長距離・大量輸送において、その安定性と効率性から多くのメリットがあります。
ここでは…
- 低炭素排出量
- 大気汚染の低減
- 騒音の低減
- 大量輸送
- 定時運行
- 安全性
- モーダルシフト
- 安定供給
- 地域振興
- エネルギー効率が高い
- 貨物の安全性が高い
…について解説します。
低炭素排出量
鉄道輸送は、トラックや航空機と比べてCO2排出量が大幅に少ないため、環境負荷の低減に大きく貢献します。電力を用いた列車は特にクリーンなエネルギー源に切り替えられることが多く、脱炭素社会を目指す取り組みに適しています。また、CO2排出量が少ないことで、企業の環境規制への対応にも役立ち、サステナビリティに貢献する点で優れています。環境に配慮した輸送を求める声が高まる中、鉄道輸送はその低炭素性からも注目を集めており、今後のエネルギー政策においても重要な選択肢となるでしょう。
大気汚染の低減
鉄道は排気ガスの発生が少ないため、トラック輸送に比べて大気汚染が大幅に低減されます。特に都市部では、自動車排気ガスによる健康被害が懸念されていますが、鉄道輸送はそのリスクを最小限に抑えることが可能です。排気の少ない鉄道輸送の利用は、都市や住宅地周辺の空気質を改善し、住民の健康リスクを軽減します。さらに、低公害の輸送手段としての位置づけは、環境にやさしい都市づくりに役立つとともに、政策的にも推奨されています。
騒音の低減
道路交通に比べて鉄道輸送は騒音が少なく、都市や住宅地の周辺環境への影響が小さいことが特徴です。静かな移動手段として、地域の騒音問題の解決に寄与し、観光地や住民に優しい輸送インフラを提供します。鉄道の騒音低減効果は、夜間の運行や長距離移動で特に顕著であり、周辺住民への配慮が重要視される中で大きな利点となっています。騒音が少ないことで、鉄道輸送の沿線地域は住環境としても魅力が増し、不動産価値の向上にもつながる可能性があります。
大量輸送
鉄道輸送は一度に大量の旅客や貨物を運ぶことが可能で、コスト効率の高さが大きなメリットです。特に都市間の移動や長距離輸送において、その輸送力が際立ち、多くの企業が物流手段として鉄道を選択する要因となっています。また、大量輸送が可能であることから、運賃の安定化につながり、社会全体の輸送コスト削減にも寄与します。大規模な貨物輸送や都市圏の通勤輸送など、需要の多い場面での利用価値が高く、多方面での活用が期待されています。
定時運行
鉄道輸送はダイヤグラムに基づき、計画的かつ正確に運行されるため、時間の予測がしやすいのが特徴です。この定時性は、特にビジネスや物流の分野において重要視され、サプライチェーンの効率化に貢献しています。道路渋滞に左右されないため、輸送スケジュールの遅延が少なく、取引先や顧客との約束を守りやすくなります。また、定時運行の仕組みが確立していることで、利用者の信頼を得ており、輸送インフラとしての価値が高いと評価されています。
安全性
鉄道輸送は固定された線路の上を走行するため、道路輸送に比べて事故の発生率が低く、安全性の高い輸送手段として知られています。列車同士の接触や脱線を防ぐためのシステムが導入されており、定期的なメンテナンスも実施されているため、安定した運行が可能です。また、鉄道の安全性は国際的にも高く評価されており、特に危険物の輸送や大量の旅客を扱う際に信頼性のある選択肢とされています。高い安全基準と事故防止策により、安心して利用できるインフラとなっています。
モーダルシフト
トラック輸送から鉄道輸送への転換(モーダルシフト)は、道路渋滞の緩和や物流業界のドライバー不足の解消につながる解決策として注目されています。道路輸送に比べて環境負荷も低く、大量輸送が可能な鉄道輸送への移行は、持続可能な物流システムの実現に貢献します。物流業界では、長距離輸送を鉄道に依存し、最後の配送はトラックで行うハイブリッド方式が採用されるケースも増加しています。モーダルシフトの推進は、効率的かつ環境に配慮した物流を目指すための重要な取り組みです。
安定供給
鉄道は自然災害や悪天候に対する耐久性が高く、輸送網の確保が安定しているため、災害時や緊急時の安定した輸送手段としても重宝されます。特に災害が頻発する地域や長距離輸送が必要な物資において、鉄道の安定供給能力は重要です。道路が寸断されるような事態でも、鉄道による輸送が代替手段として活用されることが多く、災害対応の一環としても位置づけられています。こうした安定した供給力は、鉄道輸送が生活インフラとして重要である理由の一つです。
地域振興
鉄道はその沿線地域に新たな人の流れを生み出し、経済活動を活性化させる効果があります。駅の設置によって商業や観光施設が発展し、地域全体の魅力が向上することが期待されています。特に観光地では、鉄道アクセスが良いことが観光客誘致のポイントとなり、地域経済の成長に寄与します。また、鉄道沿線の住宅や商業地が整備されることで、住民の利便性が向上し、長期的に地域振興の一翼を担うことが可能です。
エネルギー効率が高い
鉄道輸送は燃料効率が良く、特に長距離輸送においてそのエネルギー効率が発揮されます。鉄道は大量の貨物や旅客を一度に運ぶことができるため、1人あたりや1トンあたりのエネルギー消費が少なく、効率的な輸送が可能です。これは環境負荷の軽減にもつながり、社会全体のエネルギーコスト削減に貢献します。省エネの観点からも、鉄道は持続可能な輸送手段として評価されており、エネルギー政策の中でも重要な位置を占めています。
貨物の安全性が高い
鉄道は固定された路線を通り、貨物の積み下ろしが少ないため、貨物の破損や紛失のリスクが低く、安全な輸送手段です。コンテナ輸送や専用車両を使用することで貨物を保護する仕組みが整っており、特に長距離輸送や精密機器の運搬に適しています。安全性が高いことから、企業は高価値の貨物や貴重品を鉄道で輸送することが多く、信頼性の高い物流手段として評価されています。


鉄道輸送のデメリット
鉄道輸送は、多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。
ここでは…
- ルート変更の難しさ
- 小回りが効かない
- 高額なインフラ整備
- 維持費の負担
- リードタイムが長い
- 天候の影響
- 人口減少
- 競合輸送手段との競争
- 駅からの輸送
- 大量輸送の必要性
…について解説します。
ルート変更の難しさ
鉄道輸送の最大のデメリットのひとつは、道路輸送に比べてルートの変更が難しいという点です。線路が固定されているため、柔軟な対応が難しく、必要な変更が発生した場合には高額な改修費がかかることがあります。例えば、輸送経路の途中で障害が発生した場合、他のルートへ簡単に迂回することができないため、運行スケジュールが大きく影響を受けることもあります。物流の効率化が進む中、柔軟性が求められる場面が増えているため、鉄道輸送はこの点でトラック輸送に劣るとされます。結果として、ルートの選択肢が限られることが、輸送手段としての制約となるケースがあります。
小回りが効かない
鉄道は線路上しか走行できず、トラックのように目的地までのルートを自由に設定することができません。特に、都市部の狭いエリアや到達しにくい地点への輸送には不向きです。そのため、最終的な目的地までの配達には別の交通手段が必要となり、二次輸送の手配が求められます。これにより、輸送全体の効率が下がる場合があり、柔軟性を重視する物流業界では不便さを感じることも少なくありません。鉄道輸送が持つ小回りの効かなさは、特にラストマイル配送においてデメリットとして挙げられることが多いです。
高額なインフラ整備
鉄道輸送には、線路の敷設や駅の建設といった大規模なインフラ整備が不可欠であり、これには多額の初期投資が必要です。特に新たな路線の建設には長い工期と巨額の予算がかかり、莫大な資金を投じる必要があります。さらに、これらのインフラは長期にわたり利用されるため、採算を確保するには長期間の運用が求められます。このような高額なインフラ整備が、鉄道事業の新規参入や拡張の際の大きなハードルとなっており、地方路線の維持においても大きな負担となります。結果として、資金面での課題が鉄道輸送の成長を制限する要因となることが少なくありません。
維持費の負担
鉄道のインフラには定期的な保守管理や車両の更新が必要であり、その維持費が高額になることがデメリットとされています。線路の修繕や駅施設の管理、車両の整備には多額の費用がかかり、運営者の財政負担が大きくなります。特に長距離路線や過疎地域の鉄道では、運営費用の負担が収益に見合わず、廃線を余儀なくされるケースもあります。また、維持費の負担が経営に圧力をかけることで、サービスの質や利便性の低下につながる恐れもあります。このような継続的な費用負担が、鉄道事業の経営課題として挙げられることが多いです。
リードタイムが長い
鉄道輸送はトラック輸送に比べ、積み替え作業や列車の運行スケジュールに左右されるため、輸送時間が長くなる場合があります。例えば、鉄道は定期的なダイヤに沿って運行されるため、柔軟な出発や到着が難しく、物流のリードタイムが延びることがあります。また、複数の荷物を一度に運ぶことが多いため、個別の荷物の配送においては目的地に到着するまでの時間がかかることが一般的です。リードタイムが長いことで、急を要する輸送には不向きな場合もあり、即時性を重視する配送においてはトラック輸送が選ばれることが多くなります。
天候の影響
鉄道輸送は悪天候の影響を受けやすく、大雪や台風などで運行が遅延または運休することがあります。特に自然災害の頻発する地域では、鉄道の運行が大きく左右されることがあり、安定した輸送が難しくなることがあります。こうした天候による影響は、サプライチェーンや物流の流れを滞らせる原因となり、企業にとってはリスク要因となります。また、長距離輸送の途中で悪天候に見舞われた場合、荷物が時間通りに届かないなどの問題が生じることもあります。天候依存の側面が、鉄道輸送の安定性を低下させる要因の一つです。
人口減少
少子高齢化による人口減少は、特に地方の鉄道利用者の減少につながっており、採算性が悪化しています。利用者が減少すると収益が低下し、結果的に運行本数の削減やサービスの縮小、さらには廃線が検討されるケースも増えています。こうした地域では公共交通機関としての役割が求められる一方、財政的な負担が大きく、運営の持続性に課題が生じています。人口減少が進む地域での鉄道維持は困難を伴い、交通手段としての存続が問われる状況です。このように、人口構造の変化が鉄道輸送の未来に影響を与えているといえます。
競合輸送手段との競争
鉄道輸送は、自動車や航空機の普及により競争が激化しており、旅客輸送において利用者が減少する傾向にあります。特に短距離や中距離の移動では、自家用車やバスが便利で手軽な選択肢として利用されることが多く、鉄道の需要が減少しています。また、航空機による高速輸送も普及し、長距離移動では飛行機を選ぶ人が増えています。こうした競合の増加は、鉄道事業者にとって新たなサービスの開発や運賃設定の見直しといった対応が求められる要因となっています。競合輸送手段との競争が、鉄道輸送のシェア低下を引き起こす一因となっています。
駅からの輸送
鉄道輸送は、目的地までの直接輸送ができないため、駅から最終目的地までの移動手段が必要です。駅での乗り換えやタクシー、バスの利用が必要な場合が多く、特に観光地や郊外へのアクセスでは利便性が低下することがあります。これにより、ラストマイル配送が重要視される現代の物流において、鉄道輸送だけでは完結しないケースが多く、追加の手段を用いる必要があります。また、駅から目的地までの時間や費用が増加することで、利用者の負担が増えることもあります。この駅からの移動が鉄道輸送の利便性に影響を与える点として挙げられます。
大量輸送の必要性
鉄道輸送は大量の旅客や貨物を一度に運ぶことを前提に設計されているため、コンテナの積載率が低い場合、コストが高くなる可能性があります。大量輸送が見込まれるルートではコスト効率が高いですが、需要の少ない路線ではコストパフォーマンスが低下することが課題となります。このため、特定の地域や時期においては輸送効率が下がり、鉄道利用が難しくなることがあります。鉄道輸送のコスト効果は利用者や需要に依存するため、状況によってはトラック輸送など他の輸送手段が優位になる場合もあります。大量輸送の利点がデメリットになる場合がある点が、鉄道輸送の一つの制約といえます。

