3Dプリンター住宅は、建築スピードやコスト効率の向上、環境配慮といったメリットがある一方、法整備や耐震性、設計自由度の制限といった課題も抱えています。
新技術がもたらす可能性と課題の両面を探ります。
本記事では3Dプリンターで住宅をつくるメリット・デメリットについて解説します。
3Dプリンター住宅とは
3Dプリンター住宅とは、3Dプリンター技術を活用して建設される新しい形の住宅です。
この技術では、住宅の壁や床などを層状に積み重ねることで建物を形作り、まるで立体的な絵を描くように建築を進めます。
従来の木造住宅や鉄筋コンクリート造とは異なり、設計データに基づき精密かつ効率的に作業が進められるため、建築時間の短縮とコスト削減が大きな特徴です。
また、曲線的なデザインや複雑な構造も正確に再現できる自由度があり、従来の工法では実現が難しいユニークな建築物を作り出すことが可能です。
この革新的な建築方式は、環境への配慮や新たなデザインの可能性を提供しつつ、災害時の迅速な住宅供給や持続可能な社会の構築に貢献する技術として注目を集めています。


3Dプリンター住宅の建築方法
3Dプリンターを用いた住宅建設は、従来の建築方法とは大きく異なるプロセスで行われます。
主なものとして…
- 現場直接施工方式
- パーツ製造・組立方式
- 型枠製造・コンクリート注入方式
- 複層壁構造方式
- 凝固剤使用・削り出し方式
…があげられます。
それぞれ解説します。
現場直接施工方式
現場直接施工方式では、大型の3Dプリンターを建設予定地に設置し、住宅の構造物をその場で作り上げます。
この方式では、特殊なモルタルやコンクリートを層状に積み上げて壁や床を形成し、建築物全体をデータ通りに構築します。
必要な人員は3Dプリンターのオペレーターと少数の作業員だけであり、人手不足が課題となっている建築業界にとって効率的な方法です。
現場で直接施工するため、運搬コストを削減できる一方、天候や設置スペースの確保などの課題が伴います。
この方法は迅速な施工が求められる場合や、比較的小規模な住宅建築に適しています。
パーツ製造・組立方式
パーツ製造・組立方式は、3Dプリンターを工場に設置して住宅のパーツを製造し、現場で組み立てる方法です。
この方式は、マンションや商業施設といった大規模建築物に適しており、均一な品質のパーツを大量生産することが可能です。
現場での組み立て作業は従来の工法に近い部分がありますが、3Dプリンターで製造された精密なパーツを使用することで、建物全体の品質が向上します。
また、工場での製造工程が天候に左右されないため、計画通りの進行が可能です。
ただし、工場と建設地間の運搬コストが発生する点がデメリットとなります。
型枠製造・コンクリート注入方式
型枠製造・コンクリート注入方式は、3Dプリンターを使って型枠を作り、その型枠にコンクリートを流し込むことで建物を形成する方法です。
この方式では、型枠の精密な設計が可能であり、複雑な形状の建築物にも対応できます。
また、従来の型枠工法と異なり、型枠を短期間で製造できるため、施工時間の短縮が期待されます。
型枠は再利用可能な場合もあり、材料の無駄を抑えることができます。
ただし、型枠の製造には追加の材料費や工程が必要であり、全体のコスト管理が重要です。
複層壁構造方式
複層壁構造方式では、壁を複数の層で構成することで、建物の機能性を高めます。
この方式では、壁の層間に電気ケーブルや配管ダクトを設置できるため、建物の設備工事を効率化することが可能です。
また、一部の壁に輻射空調設備を組み込むこともできるため、快適性や省エネルギー性能の向上が図れます。
層状に積み重ねる3Dプリンターの特性を活かし、強度や断熱性能も高められるため、耐久性や居住性の向上に寄与します。
ただし、複層構造に適した設計や材料が必要であり、初期投資が高くなる場合があります。
5. 凝固剤使用・削り出し方式
凝固剤使用・削り出し方式は、砂のような素材に凝固剤をかけて固めた建材を使用し、これを掘り出して建築物を形成する方法です。
この技術は、資材の調達が難しい新興国や災害現場での利用に適しており、現地調達可能な素材を活用できる点がメリットです。
掘り出し後に細部を整える工程が必要であるものの、特殊な設備を必要とせず、低コストで運用できます。
簡易な建物を迅速に建設することが可能で、仮設住宅や緊急の施設建設において有効です。
しかし、耐久性や長期使用に向けた課題が残っているため、用途が限定される場合があります。


3Dプリンターで住宅をつくるメリット
3Dプリンターによる住宅建設は、従来の建築方法とは異なる数多くのメリットをもたらします。
ここでは…
- 建築スピードの向上
- 建築コストの大幅削減
- 省人化の実現
- 高いデザイン性
- 環境への配慮
- 品質の安定性
- 耐熱性・耐久性・気密性・防水性の向上
- 災害時の迅速な対応
…について解説します。
建築スピードの向上
3Dプリンターで住宅を建設する最大のメリットの一つは、建築スピードの速さです。
従来の建築方法では、住宅を完成させるまでに数ヶ月を要しますが、3Dプリンターを利用すれば、最短で24時間程度で住宅を完成させることが可能です。
また、機械は24時間休むことなく作業を進められるため、人間の労働時間に依存せず効率的に建築が進みます。
この技術は特に、急ぎの需要がある場合や、災害時の仮設住宅建設において非常に有用です。
建築コストの大幅削減
3Dプリンターでの建築は、コスト削減にも大きく貢献します。
従来の新築一戸建ては数千万円規模の費用がかかりますが、3Dプリンターを利用すれば、数百万円程度で住宅を建築することが可能になります。
材料費や人件費、運搬費の削減が主な要因です。
さらに、無駄な材料を使用せずに必要な部分だけを正確に作成できるため、コスト効率が飛躍的に向上します。
省人化の実現
3Dプリンターでの建築は少人数でも実現可能であり、省人化が進む現代社会において非常に重要な技術です。
従来必要だった高度な専門技術を持つ職人を大幅に減らすことができ、機械操作の基本的な知識さえあれば作業が進められます。
この特性は、職人不足が深刻化している建築業界にとって大きな助けとなるだけでなく、地方や人材不足地域での建築にも寄与します。
高いデザイン性
3Dプリンターは、設計図通りの形状を精密に再現する能力を持っています。
特に、曲線や複雑な形状など従来の工法ではコストがかさむデザインでも、3Dプリンターを使えば安価に作成が可能です。
この高い自由度は、建築家やデザイナーがより創造的な設計に挑戦できる環境を提供し、従来にはないユニークな建築物の創造を可能にします。
環境への配慮
3Dプリンターでの建築は環境負荷の低減にも貢献します。
木材を使用しないため森林資源を保護することができ、また、材料を無駄なく使用することで廃棄物を大幅に削減できます。
さらに、再利用可能な材料を用いることで、持続可能な建築を実現することも可能です。
環境問題への意識が高まる現代において、この技術は社会的にも大きな意味を持ちます。
品質の安定性
3Dプリンターでの建築は、データに基づいて機械が作業を行うため、品質が安定しています。
手作業で発生しがちな仕上がりのムラがなく、均一な品質の建物を提供することが可能です。
この精度の高さにより、建物全体の耐久性や美観が向上するだけでなく、長期的なメンテナンスコストの削減にも寄与します。
耐熱性・耐久性・気密性・防水性の向上
3Dプリンターで建築される住宅は、コンクリートを細かく積層する構造を採用しており、従来の建築物に比べて接合部分が少ない点が特徴です。
この構造により、建物全体が一体化し、耐熱性や耐久性が向上します。
また、気密性や防水性も高く、快適で安全な住環境を提供します。
この特性は、過酷な気候条件や災害に耐えられる住宅の建設にも適しています。
災害時の迅速な対応
3Dプリンターでの建築技術は、災害時の迅速な対応にも役立ちます。
被災地での仮設住宅や避難所の建設において、短時間で必要な建物を提供することが可能です。
また、コストを抑えつつ、必要最低限の品質を確保した住宅を提供できるため、復旧活動の一環として非常に効果的です。
この技術は、今後の災害対策における重要な選択肢となるでしょう。


3Dプリンターで住宅をつくるデメリット
3Dプリンターで住宅を造ることは、魅力的な一方で、いくつかの課題やデメリットも存在します。
ここでは…
- 建築基準法への不適合
- 基礎工事への対応不足
- 設備工事の制限
- 広い敷地の必要性
- デザインと間取りの自由度の低さ
- 表面仕上げの課題
- 法整備の遅れ
- 木造住宅の需要への不適合
- 不明確な要素の多さ
…について解説します。
建築基準法への不適合
3Dプリンターで建築される住宅は、現行の建築基準法に適合しないケースが多くあります。
これは、3Dプリンターで使用される特殊なモルタルや材料が、指定建築材料として認められていないことが主な原因です。
このため、建築確認申請が通らず、実際に住宅として利用できるエリアが限られています。
また、日本の法律における耐震性や安全性の規定に対応する基準が未整備である点も課題です。
これにより、普及を阻む大きな障壁が生じています。
基礎工事への対応不足
3Dプリンター技術は、住宅の基礎部分の施工において課題を抱えています。
特に、鉄筋を使った強固な基礎工事が現時点では難しく、地震が多い日本では耐震性に不安があります。
基礎部分が弱ければ、建物全体の安全性が大きく損なわれる可能性があり、この点を克服しない限り、日本での普及は困難です。
また、基礎工事を補うためには従来の技術を併用する必要があり、その結果、コストや施工時間が増加する場合があります。
設備工事の制限
3Dプリンターで建築した住宅は、電気、ガス、水道などの設備工事に対応する余地が限られています。
これらの設備を導入するためには、追加的な工事が必要であり、人手による補完作業が避けられません。
特に配管や配線の設置は、設計段階から詳細な計画を立てる必要があり、柔軟性に欠ける点が問題です。
この制限により、利便性の高い住宅を提供する上での大きなハードルとなっています。
広い敷地の必要性
3Dプリンターを設置して住宅を建築するには、十分なスペースが必要です。
そのため、狭小地や密集地では施工が困難であり、都市部での活用に制約があります。
この技術は広い敷地を持つ地方や郊外では有用ですが、都市部における住宅需要に十分応えられない点が課題です。
さらに、3Dプリンター自体の運搬や設置にもコストや時間がかかるため、効率的な運用が求められます。
デザインと間取りの自由度の低さ
現段階の3Dプリンター技術では、住宅のデザインや間取りの自由度に限界があります。
特に、細かなデータ作成が必要であり、設計変更が容易ではないため、顧客のニーズに柔軟に対応するのが難しい状況です。
また、複雑な間取りや仕上がりを求める場合、追加コストや手作業が必要となり、従来の建築手法と比較して競争力が低下する可能性があります。
表面仕上げの課題
3Dプリンターで建築された住宅の表面には、積層痕が残ることが多く、見た目や手触りに課題があります。
このため、左官工事やサイディング工事といった追加の仕上げ作業が必要となり、結果的にコストが上昇する場合があります。
特に美観を重視する顧客に対しては、これが大きなネックとなり得ます。
現状では、仕上げの品質を向上させるための技術革新が求められています。
法整備の遅れ
3Dプリンター住宅の普及を阻むもう一つの大きな要因は、法整備の遅れです。
現行の法律では、この新技術を前提とした規定がないため、一般的な住宅として認可されないケースが多々あります。
これにより、建築確認申請が不要な地域や限定的な用途にしか利用できない状況です。
この問題を解決するためには、技術革新に追いつく形で法改正が必要不可欠です。
木造住宅の需要への不適合
日本では木造住宅が主流であり、木の温もりや風合いを求める消費者が多いですが、3Dプリンター住宅はこれらの需要に応えられません。
コンクリートを主材料とするため、伝統的な日本の住宅文化とは相容れない面があり、普及の妨げとなっています。
この課題を克服するには、木材を模倣したデザインや仕上げの開発が必要です。
不明確な要素の多さ
3Dプリンターによる住宅建築は新しい技術であり、長期的な耐久性や維持管理に関するデータが十分に揃っていません。
このため、住居としての信頼性に対して懸念を抱く消費者も多く、普及を妨げる要因となっています。
これらの不明確な要素を解消するためには、さらなる研究や実績の積み重ねが求められます。


3Dプリンター住宅の具体例・前例
3Dプリンター住宅は、まだ世界的に見ても新しい技術であり、実用化されている事例は多くありません。
しかし、近年、いくつかの興味深いプロジェクトが進行しており、その可能性が示されています。
ここではその具体例、前例として…
- COBOD(デンマーク)
- ICON「SUNDAY HOMES」(アメリカ)
- PERI 3D Construction「公営集合住宅」(ドイツ・アメリカ)
- ナント大学プロジェクトチーム「Yhnova」(フランス)
- 大林組「3dpod」(日本)
- セレンディクス「serendix 10(スフィアモデル)」(日本)
- Lib Work「Lib Earth House “modelA”」(日本)
…について解説します。
COBOD(デンマーク)
デンマークの企業COBODは、大型の3Dコンクリートプリンターを開発し、世界中でプロジェクトを展開しています。
COBODの技術は、住宅だけでなく商業施設や公共施設の建築にも使用され、その多用途性が特徴です。
特に、アフリカやアジアの発展途上地域では、低コストで迅速な住宅提供を可能にしており、社会問題の解決に貢献しています。
さらに、3Dプリンターを使った建築技術をオープンプラットフォームとして提供し、他社との協業を推進しています。
この取り組みにより、世界的な3Dプリンター住宅の普及に寄与しています。
ICON「SUNDAY HOMES」(アメリカ)
ICON社がテキサス州で開発した「SUNDAY HOMES」は、月面基地をイメージしたユニークなデザインの3Dプリンター住宅です。
大小の円形をつなぎ合わせた独特の間取りと、湾曲した壁が特徴で、未来的なデザインが注目を集めています。
この住宅は、ICONが独自に開発した「Lavacrete」という特殊なコンクリート素材を使用しており、耐久性と気密性に優れています。
ICONはまた、NASAと協力して月面居住施設の研究開発にも取り組んでおり、この技術を宇宙開発にも応用しています。
この住宅は、デザイン性と技術革新を両立した代表例です。
PERI 3D Construction「公営集合住宅」(ドイツ・アメリカ)
PERI 3D Constructionは、COBOD社製の3Dプリンターを使用し、公営集合住宅の建設を手がけています。
2~3階建ての複数フロアを持つ住宅を施工し、3Dプリンター技術と従来の建築技法を組み合わせることで、多様な建築ニーズに対応しています。
このプロジェクトは、従来の技術では困難だった複雑なデザインや迅速な施工を可能にしました。
また、環境への配慮や持続可能な建築を追求しており、公共施設の分野における先駆的な取り組みとされています。
この事例は、3Dプリンター住宅の可能性を大きく広げる成功例です。
ナント大学プロジェクトチーム「Yhnova」(フランス)
フランスのナント大学が2018年に完成させた「Yhnova」は、3Dプリンター技術を使って建てられた初の住宅です。
「BatiPrint3D」という独自の技術を用い、延べ床面積95㎡の住宅を約54時間で施工しました。
この住宅は、建築コストを約20%削減することに成功し、コスト効率の良さを証明しています。
また、環境に優しい材料を使用し、持続可能な建築を実現しました。
ナント大学のプロジェクトは、研究機関による技術開発が実際の住宅建設にどのように貢献できるかを示した好例です。
大林組「3dpod」(日本)
大林組が2022年に完成させた「3dpod」は、日本国内で初めて建築基準法をクリアした3Dプリンター住宅です。
この住宅は、蚕の繭や豆のさやを連想させる円形の外観が特徴で、デザイン性と機能性を兼ね備えています。
大林組は、鉄筋や鉄骨の代わりに「特殊モルタル」や「スリムクリート」と呼ばれる高強度素材を開発し、耐震性や耐久性を向上させています。
このプロジェクトは、日本における3Dプリンター住宅の実用化の大きな一歩となりました。
法的基準をクリアしたことで、今後の普及が期待されています。
セレンディクス「serendix 10(スフィアモデル)」(日本)
セレンディクス社の「serendix 10(スフィアモデル)」は、施工時間23時間、価格330万円という驚異的な効率を実現した3Dプリンター住宅です。
このモデルは、2022年秋に6棟が一般販売され、大きな話題を呼びました。
球体を基調としたデザインで、災害時の仮設住宅や小規模住居としての利用が期待されています。
低コスト・短納期の利点を活かし、新興国や災害地域での活用も視野に入れた設計がされています。
この事例は、経済的な3Dプリンター住宅の可能性を示しています。
Lib Work「Lib Earth House “modelA”」(日本)
熊本県のLib Work社が手がけた「Lib Earth House “modelA”」は、土を主原料とした3Dプリンター住宅です。
この住宅は、土が7割、もみがらや石灰、ワラなどの天然素材を使用しており、環境への配慮と持続可能性を追求しています。
2024年1月に発表され、このユニークなアプローチが注目を集めました。
地元資源を活用することで、材料コストを抑えつつ地域経済にも貢献しています。
このプロジェクトは、サステナビリティを重視した3Dプリンター住宅の新たな可能性を提示しています。

